演 者 演目名:越後獅子


五代目 芳村 孝次郎
 越後獅子は新潟から上方や江戸に出て来て、大道芸をやった角兵衛獅子のことである。この曲は九代目杵屋六左衛門作曲であるが、地唄の「越後獅子」をそっくり頂いて座付作者の篠田金次が補綴した形になっている。これには芝居興行の張り合った話が残されている。文化八年(1811)三月十五日初日、江戸中村座の大切に出した「遅桜手爾葉七字(おそざくらてにはのななもじ)」という七変化所作事の中の一つがこの曲で、踊ったのは三代目中村歌右衛門であった。丁度同じ月の六日初日で三代目坂東三津五郎が江戸市村座で踊った七変化所作「源太」の中で、ライバル歌右衛門を当てこするようなことがあったそうで,怒った歌右衛門が急遽対抗する七変化所作を作らせた中の一つが、風俗舞踊の「越後獅子」であった。結果は歌右衛門の中村座が勝って、市村座は興行を中途で止めてしまった。急拵えで地唄から頂いた「越後獅子」が、長唄を代表する曲の一つとして残ったのは、曲に魅力が今でも秘められているからであろう。常磐津「角兵衛」も収録されているので参考に聴いて欲しい。
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